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「伝統を守る」を柔軟に捉えた成功事例 胡粉ネイルを生んだ事業承継

約260年前に創業された日本最古の日本絵具メーカーとして伝統を守りながら事業を続けてきた京都にある老舗企業の上羽絵惣社が、市場に届ける「胡粉(gofun)ネイル」は、ここ2、3年女性ファッション誌の常連になっている。取り上げられるメディアはファッション誌だけに留まらず、生活情報誌、ビジネス誌、地域情報誌など多岐に渡る。
なぜ、胡粉(gofun)ネイルは幅広いメディアに注目され、女性消費者たちの心を掴んでいるのだろうか?「胡粉(gofun)ネイル」のニーズは、今や国内だけに留まらない。

事業を見事にV字回復させ、次なる目標に進んでいる上羽絵惣社。
伝統文化を受け継ぐ事業承継に対する捉え方、潜在ニーズを掴む市場開拓の視点から、その成功のヒントが見えてくる。「自社のビジネスはもう…」「時代が昔とは違うから」と決めつけてしまうのはもったいない。伝統事業に宿る大切にしていくべき資産「モノ」と、これからを創っていく価値「コト」とは何か?について柔軟に考え、探求している上羽絵惣を参考に、自社のモノづくりを見直すコトのヒントを掴んでみよう。

江戸時代 宝暦元年(1751)創業の伝統文化を現代文化に蘇らせる

上羽絵惣は江戸時代からある日本最古の日本絵具メーカーとして、何代にも渡り伝統事業を受け継いできた。しかし、時代の移り変わりとともに日本画市場は縮小し、日本絵具の需要は落ち込む一方でバブル崩壊以降は、まさに正念場だったという。

伝統文化を守るということの意味

260年も続く伝統文化を、いったいどのように承継していったらいいのだろうか? 需要は縮小している。事業を畳むというのも一つの選択肢かもしれない…。が、江戸時代から受け継ぐ伝統を残したい、絵の具の製造に携わっている職人さん達の暮らしを守りたい、という強い思いがあり、事業を畳むという選択は考えられなかった。

伝統文化を現代の人々に使ってもらえてこそ伝統が活きる

上羽絵惣の十代目となる石田氏は、先行きの厳しい事業を受け継ぐ中で、伝統を守りながらどのようにしたら現代社会に絵具が受け入れられるのだろうか?ということを日々考えていたという。
日々考えていると「アートは芸術家だけの限られた世界のものではなく、お化粧やファッションなど身近な自己表現の手段もアートではないだろうか?」という考えに行き着いた。

伝統として使われてきた素材を活かした商品創り

考えを巡らしていたある日、ラジオで通常のネイルだと爪が痛むから、ホタテ塗料を爪に塗っているという話を耳にする。上羽絵惣が絵具として使用している素材の「胡粉」は、古くから日本画の白色顔料として使われているホタテ貝殻の微粉末だ。

「自分たちが伝統文化を伝える素材として長い年月使ってきたものが役に立つ」

このラジオから話を聞いたことをきっかけに、十代目となる石田氏は、ダメージの少ない溶剤を使ったマニキュアの開発に取り組むことを決める。
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今までにないネイルへのこだわりと伝統文化の融合

エコ素材を使用した人に優しいダメージレスなネイルへの取り組みは、改良に改良を重ねる日々。発売当初は、手洗いで落ちてしまうようなものだったが改良を重ね、ある程度の持続性をもたせながら、アセトンを使わない除光液で落とせるものにした。

日本の色彩美を伝える色とネーミング

ネイルのカラーは、伝統文化を現代に承継する日本の風土、気候、風習に根差し古くから伝わっている日本に馴染む色を取り入れた。ネーミングは、その伝統文化をイメージさせるものにし、日本の四季や文化に培われた色の美しさや色名に、日本の伝統と日本の別品さを改めて感じてもらいたい、という思いを込めたもの。
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伝統文化を活かす商品ラベル

上羽絵惣が発売しているネイルの商品ラベルは、印象に残りやすい。どこか懐かしさを感じさせ、他社のネイル商品には見られない商品ラベルだ。
実はこの商品ラベル、上羽絵惣の六代目が明治時代に考案した胡粉のパッケージを用いたもの。
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当時の胡粉パッケージのデザインを、ネイルの商品ラベルに使用することを選んだ理由には、女性の本質的な美に対する思いを後押ししたい、という上羽絵惣十代目石田氏の強い思いが込められている。胡粉のパッケージがデザインされた背景には、文明開化という時代の流れがあり、女性の美意識にも通ずる和魂洋彩(日本古来の精神を大切にしつつ西洋の技術を受け入れ、両者を調和させ発展させていく)・才色兼備(「学ぶ」ことが拓かれ女性の生活・生き方そのものが大きく変化)という新たな価値観が問われ始めた時代。その文明開花の考え方は、現代にも通じるところがあり、女性の生き方がかわりつつある「今」は、新たな文明開化と言えるのではないだろうか、と考えているという。

商品コンセプトに沿った機能的価値×意味的価値×伝統文化

毒性の強い有機溶剤を含まないためシンナー系の匂いがしない、アセトンの除光液がいらないという特徴を持つ、上羽絵惣が提供する「胡粉(gofun)ネイル」は、
• 日本の伝統色を豊富なラインナップで楽しめる「和色シリーズ」
• 明るく元気な色をテーマにし、子供にも親しみやすい名前がついた「パステルシリーズ」
• 入浴時にネイル被膜を剥がせるので、除去液やアルコールを使わず落とせる「輝かシリーズ」
の主な3つの商品軸で現在展開されている。
パステルシリーズは、親子でネイルを楽しむケースとしても人気があるという。無臭で除光液がいらないため、親が安心して「特別な日使い」などに子供とオシャレを楽しめるのだ。
「胡粉(gofun)ネイル」の使い勝手の良さ(特徴)は、仕事で平日はマニキュアができない人や、子育てに追われて自分のために費やす時間の少ないママなどからも支持を得ている。
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上羽絵惣の「人に優しい商品」を提供するという商品コンセプトを元に創られたネイルは、爪が薄くて弱いためマニキュアを諦めていた人、抗がん剤治療で爪が黒ずんでしまった人、病気と闘うことに一所懸命でオシャレをする余裕のなかった人や、親子で参加するイベントなどにも利用され子供とのコミュニケーションツールに活用されたりもしているという。また、自分買いだけでなく、京の老舗が開発したことを背景として、お土産物としてのギフト購買も多いという。

今までのネイルにはない商品の訴求ポイントがネイルを楽しみたかった潜在ニーズに寄与

伝統の絵具として使われてきた胡粉を使用し、人に優しいダメージレスなネイル商品を開発することを決めた時から始まった上羽絵惣の「人に優しい商品」を創るという商品コンセプト。

「マニキュアのにおいが苦手」「爪が痛む、病気治療中で刺激の強いものは使えない」「家事や仕事で時間がない」など、様々な事情でオシャレを楽しめない人たちに、「ネイルを入り口に美しくなることに喜びを感じる女性の素晴らしさを味わってもらえるきっかけを提供していく企業でありたい」としている。

次なる目標は日本の色彩美を世界に

上羽絵惣の今後の展開は、日本だけでにとどまらず何らかの理由で女性としての楽しみを諦めている世界中の人々の爪を彩っていきたい。
日本の伝統色を伝えるプロとして、日本の色彩美を感じていただけるプロデュースをしていく、としている。

すでに海外での販売は2015年に開始しており、今までに約1万3000本を販売している。
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’和’を超えたモダンな色が女性の視覚•感情を刺激する 上羽絵惣が提供する色彩美。

 

 

 
■ 参考
上羽絵惣ホームページ
色から選ぶ胡粉ネイル
 
 
 

 

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