ものづくりベンチャー ロビット社から学ぶ ベンチャーマインドのリーダーシップ
自社開発製品が発売からわずか半年で製品の出荷台数1万台を突破したものづくりベンチャー株式会社ロビット。
ロビットを率いるCEO高橋勇貴氏の起業のきっかけから現在までを辿り、ベンチャーマインドのリーダーシップについて見てみよう。起業家のみならず、アイデアを形にするために必要なリーダーシップマインドの要素がたくさんあるので、参考になる点が多い。
何気ない会話から生まれた起業への思い「身近にある困難を解決したい」
株式会社ロビットというものづくりの会社を立ち上げた高橋氏だが、もともとは起業に興味があったわけではなかった。自分はどこかの企業に入って働く人だと、ごくごく普通にそう思っていたという。
そんな彼に転機が訪れたのは、大学時代にインターンとしてJAXAの宇宙開発研究所で省電力に関わる研究に従事していた時だった。「今、やっていることっていったいいつ世の中に出るんですか?」と何気なくJAXAの人に訪ねてみた。返ってきた答えは「随分先かな?」といったようなものだった。「そうだよなぁ」十分理解できる。
理工学系の学生なら誰もが憧れるJAXAでの共同研究員としてのキャリアに魅力を感じつつも、
「もっと身近に、技術の力で何かできることはないだろうか…」と思い始める。
日々の生活の中で考えを深化させて行動に結びつくきっかけを逃さない
「身近に何かできることはないだろうか」そんな思いを抱えて日々過ごしていると「それなら、ちょっと自分が普段考えている悩みにアプローチして世の中で試してみようかな」と思い始めたという。タイミングもよかった。大学にビジネスコンテストのポスターが貼ってあった。当時のポスターの謳い文句「世界一」に、「よし、やってみよう!」という気持ちが後押しされた、という。
当たり前に感じている不便や困難さに疑問を持ってみる
当時、高橋氏は東京ドームで行列整理の係員のアルバイトをしていた。アイドルのコンサートがある時は、長蛇の行列ができる。数十分じゃない。何時間待ちの行列。行列の係員は、同じ事をしゃべり長時間を立ちっぱなし。大変な業務に感じたという。「これ、ロボットに変えられないかな?ロボットだと、行列に並んでいるお客さんが面白いと思ってくれて、みんなを楽しませることができるんじゃないかな?企業側は、人件費の削減にもなるんじゃないかな?」と、行列の係員の仕事をしながらそんなことを考えていたという。
「世の中で自分の力を試してみたい」と思っていた彼は、このアイデアでビジネスコンテストに出場してみることを決める。
市場のニーズを施策レベルへ、評価されたビジネスコンテスト
コンテストに出場してみると、そうそうたる大学からそうそうたる面々が出場していた。立派なビジネスモデル、計画書を作ってきた大学チームもあって、すごいなあ、と素直に関心させられたという。
ビジネスコンテストでSequenceRobotのプレゼンを行う高橋氏。写真提供元:高橋氏
しかし、結果はなんと高橋氏の率いるチームが全出場チーム230組を勝ち抜いて優勝する。
2013年度(第7回)コンセプト:~繋~
優勝:SequenceRobot開発チーム
事業:SequenceRobotの提供
概要:イベント業界での行列に関する3つの悩み(「人件費」「業務効率」「来場者のストレス」)を解決するSequenceRobotの提供“
引用元:中央大学HP 学生支援:野島記念 Business Award
評価コメントは、主に次のようなものだったという。
人々が行列に悩む辛さの解消に、ニーズの強さを見いだしていること。それを施策レベルにまで創り上げたこと。
当時を振り返って高橋氏は、「自分たちのロボット企画が優勝できた一番のポイントは、審査員自身もそれが欲しいと思うものだったのではないだろうか」という。
ビジネスコンテストで優勝したSequenceRobot 写真提供元:高橋氏
優勝して当然ながら嬉しかったが、ただ喜んでばかりいたわけではなかったという。良い評価コメントばかりではなく、厳しいことも言われ、悔しい思いもした。だが、その時に言われて悔しかったことが「ぜったい、やってやる!」という気持ちにもさせられたという。
成功への道は、一緒に成長できる仲間に出会うこと‘みんなで市場を創る’という意識
「ものづくり系は環境が大事」と高橋氏はいう。
製造業のものづくりベンチャーの起業資金は3000万円くらいかかるため、ハードウエアを作る会社は煙たがられるという。ベンチャーキャピタルも同様だという。
彼は、自分は運がよかったという。ビジネスコンテストに出場したことで、様々な起業家の先輩達と出会うきっかけができて、起業家の先輩達からアドバイスを受け経営の支援を得ることができたという。
高橋氏は自身の経験として、もっとベンチャーが成長しやすい環境や仕組み創りが必要だ、という。
軌道に乗ったベンチャー企業を見ていると、先輩起業家から知見提供を受け、受けるだけではなく互いに無い知見を補完し合いながら、共に成長するという考えを持って取組んでいるように思う。組む相手は、同じ志や、同じようなスタンスであることが大切かもしれない。
失敗から学び、工夫改善をスピーディに行うことが企業を成長させる
事業立ち上げ当初は、皆にあまり相手にされない日々が続いたという。それでも「商品を手にした人たちの不便や困難が改善されるものを作る」という思いを抱きながら、試行錯誤を繰り返しやり続けた。そうこうしていると、「こんなにたくさん、なぜつくれるの?しかも短期間で」「ものづくりは期間もお金もかかるのになぜ?」という驚きや、「彼らは成功し続けるために、失敗してもトライする企業ではないか?」という具合に、周りの人たちからの自分たちに対する見る目が変わってきたのを感じたという。
失敗から学び工夫改善をスピーディに行うこと、会社の成果はみんなで創り上げたもの、みんなで喜びを共有するものだということ、を大切にしたいと高橋氏はいう。その思いは、社内に対してだけではなく、日頃お世話になっている町工場の方々やビジネスパートナーに対しても同じだ。
起業の思いを企業ミッションに価値提供を探求し続ける
「身近な不便や困難を解決する」ロビット社。彼らの挑戦は、すでに次のステージに進んでいる。
めざましカーテン「mornin’」の拡販以外に、BtoB向けに新たな製品RACS SYSTEMをリリースし、2017年1月より実装が開始されている。
工場が抱える‘現場の人が抱えるストレス’の問題に着目し、人口知能搭載で業務効率化を図る仕組みを提供するもの。話を伺っていると面白そうな製品だ。「身近な不便やを困難を解決する」という企業マインドに根差した製品コンセプトを「mornin’」の開発と同じように実践している。システムを導入する対象工作機器は、ものづくりの現場で多くの工場に取入れているFANUC社のもの。今後は、FANUC社以外の工作機器にも対応できるように検討中とのことだ。
■参考
CNCの運用をIoTでスマートにRACS SYSTEM
■関連記事
発売開始から約半年で1万台出荷!ものづくりベンチャーがヒット商品を生み出した秘訣